fc2ブログ

サンクリ34発行ペーパー内SS スキマおくり

同人サークル「Spacer Block」の情報サイトに なりそうです。あとは、自分用のゲームメモ。

ホーム > 同人 > サンクリ34発行ペーパー内SS

サンクリ34発行ペーパー内SS

注意・この作品はサンクリ34で発行したペーパー内に載せられたSSです。


東方プロジェクト・ショートストーリー
咲夜を刻む時計

「お邪魔しまーす」
 声は、誰もいない場所から聞こえてきた。
 直後、その場所にピィと切れ目が走る。
 空間を切り開いて姿を現すという、普通に考えてはありえない登場の仕方をしたのは、派手な格好をした貴婦人だった。手にはこれまた装飾品の煩い日傘を所持している。
 若い様にも、老けている様にも見える顔には、酷く不自然で作り物にも似た微笑みが乗っていた。
「ここが、貴方の世界ね」
 婦人は確認するように、目の前で眠り続ける赤子に囁いた。
 そして、ゆっくりと周囲を見回す。
 彼女が「世界」と称した空間には何も無い。
 果てし無く広大に見えて、物凄く狭くも感じる。
 色はグレー、というよりも、白黒(モノクロ)。
 時折、女性の姿が映写幕(スクリーン)に投影されるように浮かび上がっては消えていく。
「綺麗な人ね。お母さんかしら?」
 婦人は何度かその姿を拝見してから優しく訊いた。
 赤子は答えず。ただ、すやすやと眠っている。
 婦人も気にせず、空間を裂いて左手を差し込む。
 ごそごそと手探り。やがて、引き戻された手には懐中時計が握られていた。
 上部の突起を押して、ぱかりと蓋を開ける。
 チッ――――――――――――――――――――――――――――――――――チッ。
 一秒を、長い時間を掛けてその時計は、刻んだ。
 時計を覗く婦人は満足して、二度、三度、と頷く。
 まるで、それでいい。それが正解だ。というように。
 婦人は懐中時計の蓋を閉めると、やんわりと手の内へ包み込んだ。
「ちょっと訪れるのが早かったわ」
 婦人は懐中時計を赤子の手にそっと握らせた。
「またいずれ、お邪魔することに致します」
 傘を上下に動かし空間に一筋の線を入れる。
「それでは、ごきげんよう」
 開いた穴を婦人が潜り抜けた。

 戻ってきた静かな「世界」に赤子の握る懐中時計の音が響く。
 チッ、、チッ、、チッ……。
 その律動は婦人が持っていた物と思えないほど速くなっていた。

   ★★★

「咲夜さん?」
「ひゃぁう!?」
 咲夜が悲鳴を上げるのと、世界がキンという音を立てて凍りつくのは同時だった。
 咲夜は速まった鼓動を押さえる為に、自分の手を胸に当てて深呼吸をした。
 その手の中で懐中時計が元気に時を刻んでいる。
 チッ、チッ、チッ……。
 今、この世界で動いているのは咲夜自身と彼女の持っている懐中時計のみ。咲夜に声をかけた美鈴さえ、声をかけた状態で停止している。
 咲夜は、時間を、凍らせる。
 反射運動で時間を停止させる習慣は、重なり続ける経験の中で身に着けた特技。
 最初は身体(いのち)を守るために。今も立場(いのち)を守るために。役に立つ。
 きっと、悲鳴は届いていない。
「もう、この子は気配を消して近づいて来るんだから」
 困るけど、憎めない。そんな彼女の性質は得なのだろうか。
 咲夜はおもむろに右手を振るう。
 どこから現われたのか。美鈴の眉間手前に銀色のナイフが配置された。
 咲夜は思う。お仕置きを免れない彼女の性質はきっと損なのだろうと。
 白黒(モノクロ)の世界で、咲夜は自分が落ち着いたことを確認して、時間を解凍する。
 サクッと音がした。
 何を言っているのかよくわからない声を出して、眉間にナイフを突き立てた美鈴が転げまわる。
「酷いですよ、咲夜さーん」
 泣きっ面で訴えてくる。相も変わらず頑丈だ。
「ところで、何か用だったのかしら?」
「あ、いや、壊れた時計なんてじっくり見てどうしたのかなと」
 美鈴の訴えを無視して話を進める咲夜も咲夜だが、眉間に刺さったナイフを無視して話に乗る美鈴も美鈴である。しかもどちらも気にしていない。
 きっとこれが彼女らの日常なのだろう。
「覗き見るなんて、いい性格になったわね」
「ひっ、ごめんなさいっ。ごめんなさいっ」
 思いきり平謝りする美鈴を再度無視して、咲夜は淡々と語る。
「この時計は、私が赤ちゃんの時にいつの間にか手に持っていて離さなかった物らしいわ」
「だから、大切に持っているんですね」
「大切よ。とっても貴重な物だもの。……でも、ひとつ間違えているわ」
 咲夜は懐中時計の蓋を開く。
 開放される音は無し。針もまったく動くそぶりを見せない。
「この時計は動いていないけれど、壊れてはいないわ」
 だから、大切に持っているのよ。と付け加えて、咲夜は仕事に戻っていった。
 残された美鈴は、何を言っているのかわからず、ただただその場で首を傾げていた。

終わり
スポンサーサイト



[ 2007/02/15 21:25 ] 同人 | トラックバック(-) | コメント(0)
コメントの投稿













管理者にだけ表示を許可する
ブログ内検索